第106回医師国家試験 G54(2012年)
正答:c
問題
3歳の男児。聴こえが悪いことを心配した母親に伴われて来院した。2か月前に細菌性髄膜炎と診断され、自宅近くの医療機関で治療を受けた。退院した後、呼んでも振り向かなくなっていることに気付いたという。発語に問題はない。鼓膜所見に異常を認めない。聴性脳幹反応では両側無反応である。頭部MRIで異常を認めない。
対応として適切なのはどれか。
a.鼓室形成術
b.補聴器の装用
c.人工内耳埋め込み術
d.副腎皮質ステロイドの大量投与
e.定期的聴覚検査による経過観察
正答の理由
細菌性髄膜炎の後に、鼓膜所見正常・聴性脳幹反応(ABR)両側無反応という両側の高度〜重度感音難聴を来しています。言語を一度獲得した後の失聴(発語に問題はない)で、髄膜炎後は内耳の炎症が治まる過程で蝸牛内に線維化・骨化が進み、時間が経つと電極挿入が困難になることがあります。日本耳科学会の小児人工内耳適応基準(2022)は、言語習得期以後の失聴例では早期に人工内耳を検討することが望ましいとし、例外的適応条件に「髄膜炎後の蝸牛骨化の進行が想定される場合」を挙げています。したがって、補聴器で様子を見るより人工内耳埋め込み術を急ぐのが適切です(引用した適応基準は2022年版)。
各選択肢の検討
a.誤り。鼓室形成術は鼓膜穿孔や耳小骨の障害による伝音難聴を改善する手術です。本例は鼓膜所見が正常でABR両側無反応の感音難聴で、中耳の手術では聴力は戻りません。
b.誤り。ABR両側無反応は重度難聴を示唆します。補聴効果も含めて専門的な聴覚評価は必要ですが、髄膜炎後は蝸牛骨化が進むおそれがあり、補聴器のみで長く様子をみる対応より人工内耳を早期に検討します。
c.正しい。髄膜炎後の両側重度感音難聴で、蝸牛骨化が進む前に人工内耳を入れることが、獲得した言語を保つうえでも重要です。MRIでも手術を妨げる異常はありません。
d.誤り。副腎皮質ステロイドは細菌性髄膜炎の急性期治療(抗菌薬と同時)で難聴などの後遺症を減らす目的に使われますが、発症から2か月経った持続している重度難聴に対して、ステロイド大量投与を優先する根拠はありません。
e.誤り。経過観察では聴力改善は見込めず、その間に言語発達の機会を失い、蝸牛骨化で手術の時機を逸するおそれがあります。
覚えるポイント
髄膜炎後の両側重度感音難聴=蝸牛骨化が進む前に早期の人工内耳(小児人工内耳適応基準の例外的適応)。
出典・参考資料
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。