第120回医師国家試験 F74(2026年)
正答:e
問題
88歳の男性。呼吸困難を主訴に来院した。
現病歴:1週間前から労作時の呼吸困難が出現している。昨夜の就寝中から湿性咳嗽が出現しており、今朝から全身倦怠感が著明となり、安静にしていても症状が徐々に増悪するため受診した。
既往歴:高血圧、脂質異常症および糖尿病で外来通院中。2年前から腰部脊柱管狭窄症で整形外科通院中。8年前に心房細動でカテーテルアブレーション治療。10年前には両側の手根管症候群で外科手術。
生活歴:喫煙は20歳から現在まで10本/日、飲酒は機会飲酒、妻との2人暮らし。
家族歴:特記すべきことはない。
現症:意識は清明。身長158 cm、体重57 kg。体温36.8 ℃。脈拍60/分、整。血圧108/90 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 92%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認める。心音はⅠ音、Ⅱ音は正常。Ⅳ音を聴取する。呼吸音は、両下肺野で減弱しており、上肺野ではcoarse cracklesを聴取する。腹部は平坦、軟で、右肋骨弓下に肝を3 cm触知するが、脾を触知しない。四肢末梢は冷感を認める。両下腿浮腫を認める。
検査所見:血液所見:赤血球402万、Hb 12.1 g/dL、Ht 40%、白血球4,500(好中球64%、好酸球2%、好塩基球1%、単球8%、リンパ球25%)、血小板16万、Dダイマー0.3 μg/mL(基準1.0以下)。血液生化学所見:総蛋白7.3 g/dL、アルブミン3.6 g/dL、総ビリルビン0.8 mg/dL、AST 72 U/L、ALT 59 U/L、LD 185 U/L(基準124〜222)、ALP 323 U/L(基準38〜113)、γ-GT 69 U/L(基準13〜64)、CK 70 U/L(基準59〜248)、尿素窒素17 mg/dL、クレアチニン1.3 mg/dL、尿酸5.9 mg/dL、血糖117 mg/dL、HbA1c 7.2%(基準4.9〜6.0)、トリグリセリド291 mg/dL、HDLコレステロール40 mg/dL、LDLコレステロール118 mg/dL、Na 132 mEq/L、K 4.1 mEq/L、Cl 100 mEq/L、Ca 9.4 mg/dL、BNP 681 pg/mL(基準18.4以下)、心筋トロポニンT 0.9 ng/mL(基準0.01以下)。CRP 1.0 mg/dL。血清免疫電気泳動でM蛋白を認めない。動脈血ガス分析(room air):pH 7.32、PaCO2 41 Torr、PaO2 69 Torr、HCO3− 31 mEq/L。心エコー検査では、左室収縮能は良好に保たれているが、全周性に左室壁は肥厚しており、輝度が高い。12誘導心電図(別冊No.9A)と胸部エックス線写真(別冊No.9B)とを別に示す。
原因疾患の診断に重要な検査はどれか。
a.針筋電図検査
b.冠動脈造影検査
c.スパイロメトリ
d.心臓電気生理学的検査
e.ピロリン酸シンチグラフィ


正答の理由
高齢男性で、収縮能が保たれた心不全、全周性の左室壁肥厚と輝度上昇、両側手根管症候群や腰部脊柱管狭窄症の既往があり、トランスサイレチン型〈ATTR〉心アミロイドーシスを疑います。診断に重要なのはeのピロリン酸シンチグラフィです。血清免疫電気泳動でM蛋白を認めないことだけでAL型を完全に除外せず、診断では血清・尿の免疫固定法や血清遊離軽鎖なども評価します。
画像の見方
心電図では四肢誘導のQRS振幅が小さく、心エコーでの壁肥厚との不釣り合いが心アミロイドーシスを疑う手掛かりになります。胸部写真では両側の肋骨横隔膜角が鈍化し、下肺野を覆う胸水を示唆する陰影を認めます。これらを身体所見・BNP・心エコーと合わせて評価します。
各選択肢の検討
a.針筋電図検査:神経・筋疾患を調べる検査であり、疑われる心アミロイドーシスの診断を進める本問の検査ではありません。
b.冠動脈造影検査:冠動脈疾患の評価には有用ですが、壁肥厚と心外症状の組合せから疑う病態にはピロリン酸シンチグラフィが重要です。
c.スパイロメトリ:換気機能を評価しますが、本例の心臓の壁肥厚やうっ血の原因診断に直結しません。
d.心臓電気生理学的検査:不整脈の機序評価などに用いる検査で、アミロイド沈着を診断する検査ではありません。
e.ピロリン酸シンチグラフィ:ATTR心アミロイドーシスで心筋への集積を評価する重要な検査です。単クローン性蛋白の評価などと組み合わせて診断します。
覚えるポイント
心不全に左室壁肥厚があり、両側手根管症候群や脊柱管狭窄症の既往を伴う高齢者ではATTR心アミロイドーシスを疑います。ピロリン酸シンチグラフィ単独で病型を確定しないことも大切です。
出典・参考資料
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。