第120回医師国家試験 F66(2026年)
正答:e
問題
70歳の男性。血便を主訴に来院した。
現病歴:6か月前から便秘が数日間続いたあとに下痢をするという便通異常を繰り返していた。3日前から便秘があり、今朝、下痢をした後に血便を認めたため救急外来を受診した。
既往歴:糖尿病で内服治療中。薬物アレルギーの既往はない。
生活歴:5年前に会社を退職し、妻と同居している。娘は2人おり、同居はしていない。喫煙は受診時まで10本/日を40年間。飲酒は機会飲酒。
家族歴:父は75歳時に胃癌で死亡。母は86歳時に肺炎で死亡。
現症:意識は清明。身長163 cm、体重54 kg。体温36.5 ℃。脈拍100/分、整。血圧150/80 mmHg。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜は軽度貧血様である。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。腹部全体に圧痛は認めない。直腸指診で腫瘤を触知しない。
検査所見:血液所見:赤血球350万、Hb 10.5 g/dL、Ht 30%、白血球7,800、血小板25万、PT-INR 1.1(基準0.9〜1.1)、APTT 32.0秒(基準対照32.2)、Dダイマー0.9 μg/mL(基準1.0以下)。血液生化学所見:アルブミン3.2 g/dL、AST 26 U/L、ALT 17 U/L、尿素窒素25 mg/dL、クレアチニン0.7 mg/dL、血糖85 mg/dL、HbA1c 6.6%(基準4.9〜6.0)、CEA 6.0 ng/mL(基準5以下)、CA19-9 30 U/mL(基準37以下)。CRP 0.1 mg/dL。腹部エックス線写真で大腸ガス像を認め、小腸ガス像は認めなかった。
術後は転居などで外来受診が滞っていた。術後4年経過して、倦怠感が強く、日中ほとんどの時間を横になって過ごすようになり、食事が摂れなくて体重が1か月前から10 kg減ったとのことで受診した。画像検査で、多発肝腫瘍、多発肺腫瘍および多発リンパ節腫大を認めた。入院し中心静脈栄養を行ったが栄養状態は改善せず、全身状態はさらに悪化し、耐糖能異常や浮腫を認めるようになった。
この患者の病態で正しいのはどれか。
a.前悪液質である。
b.経腸栄養で体重が増加する。
c.骨格筋の筋量は保たれている。
d.薬物による抗癌治療の適応である。
e.がん細胞のエネルギー代謝が関連する。
正答の理由
多臓器への再発・転移を示唆する所見に加え、急速な体重減少、活動性低下、中心静脈栄養でも改善しない栄養障害から、進行したがん悪液質を考えます。悪液質には単なる摂取不足に加えて、がん細胞のエネルギー代謝や腫瘍と宿主の相互作用による糖・脂質・蛋白代謝の異常、炎症反応が関連するため、eが正解です。栄養の投与経路を変えるだけでは十分に改善しない病態です。
各選択肢の検討
a.前悪液質である:前悪液質は悪液質の早期段階です。本例は著明な体重減少と活動性・栄養状態の悪化があり、その段階を超えています。
b.経腸栄養で体重が増加する:高度の悪液質は通常の栄養補給だけでは十分に回復しません。経腸栄養へ変更すれば体重が増えるとはいえません。
c.骨格筋の筋量は保たれている:悪液質では骨格筋の減少が重要な特徴です。浮腫があると体重だけでは筋肉や栄養状態の悪化を把握しにくくなります。
d.薬物による抗癌治療の適応である:ほぼ臥床して過ごし、栄養介入でも改善せず全身状態がさらに悪化している本例では、抗癌薬の利益が得られる状態とは考えにくく、症状緩和と本人の希望を踏まえたケアを重視します。
e.がん細胞のエネルギー代謝が関連する:腫瘍側の代謝と宿主側の炎症・代謝異常が関係し、摂取不足だけでは説明できない体重・筋肉の減少を来します。
覚えるポイント
がん悪液質では筋肉量が減少し、栄養補給だけでは十分に逆転できないことがあります。進行度・全身状態に応じて栄養や輸液の利益と負担を見直し、抗癌治療を行えば必ず改善するとは考えません。
出典・参考資料
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。