第120回医師国家試験 F62(2026年)
正答:c
問題
80歳の男性。労作時の息切れを主訴に来院した。
現病歴:3年前から労作時に息切れを自覚していた。6か月前から咳、痰が出現し、1か月前から坂道や階段を途中で休まないと昇れなくなったため受診した。
既往歴:2年前に閉塞隅角緑内障と診断されたが、以後、通院はしていない。
生活歴:喫煙は40本/日を60年間。飲酒は機会飲酒。
家族歴:父が脳梗塞。
現症:意識は清明。身長170 cm、体重58 kg。体温36.2 ℃。脈拍92/分、整。血圧138/62 mmHg。呼吸数24/分。SpO2 90%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認めない。胸鎖乳突筋の肥大を認める。心音に異常を認めない。呼吸音は全体的に減弱しており、喘鳴を認める。両下腿に浮腫を認めない。
検査所見:血液所見:赤血球460万、Hb 13.7 g/dL、Ht 42%、白血球7,600、血小板18万。血液生化学所見:AST 22 U/L、ALT 18 U/L、LD 210 U/L(基準124〜222)、尿素窒素16 mg/dL、クレアチニン0.7 mg/dL、Na 140 mEq/L、K 4.3 mEq/L、Cl 97 mEq/L。動脈血ガス分析(room air):pH 7.41、PaCO2 54 Torr、PaO2 58 Torr、HCO3− 32 mEq/L。胸部エックス線写真では、両側横隔膜の平低化および滴状心を認める。
入院で酸素投与、グルココルチコイド点滴静注および抗菌薬投与を行い、症状が改善したため退院予定となった。階段は途中で休まずに昇れるようになったが、急いで歩くと息切れがする。
退院前に開始する治療で適切なのはどれか。
a.抗コリン薬の内服
b.グルココルチコイドの内服
c.長時間作用型 β2 刺激薬の吸入
d.セフェム系薬の少量長期の内服
e.ロイコトリエン受容体拮抗薬の内服
正答の理由
COPDの増悪に対する入院治療後も労作時息切れが残っており、長時間作用型気管支拡張薬による維持治療が必要です。選択肢ではcの長時間作用型β2刺激薬〈LABA〉の吸入を選びます。本例には未治療の閉塞隅角緑内障があり、抗コリン薬の使用に注意が必要である点も重要です。
各選択肢の検討
a.抗コリン薬の内服:COPDの維持治療には通常、吸入気管支拡張薬を用います。加えて、閉塞隅角緑内障では抗コリン作用による眼圧上昇・症状悪化が問題となります。
b.グルココルチコイドの内服:増悪時には短期間の全身投与を用いますが、改善後の安定期に維持治療として漫然と内服を続けることは適切ではありません。
c.長時間作用型β2刺激薬の吸入:気管支を拡張して気流制限や息切れを改善する、COPDの維持治療として適切な選択です。
d.セフェム系薬の少量長期の内服:感染を伴う増悪時の抗菌薬投与と、安定期の維持治療は区別します。セフェム系薬を少量で長期間内服する方針は適切ではありません。
e.ロイコトリエン受容体拮抗薬の内服:気管支喘息などで用いる薬で、COPDの維持治療として選ぶ薬ではありません。
覚えるポイント
COPDでは吸入の長時間作用型気管支拡張薬が維持治療の中心です。増悪時の酸素・全身性ステロイド・抗菌薬を、そのまま維持治療として続けるわけではありません。抗コリン薬を検討する際は閉塞隅角緑内障などの併存症を確認します。
出典・参考資料
- 厚生労働省:第120回医師国家試験問題および正答
- 日本呼吸器学会:慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 日本呼吸器学会:COPD診断と治療のためのガイドライン2022(第6版)
- PMDA:抗コリン作用を有する薬剤における使用上の注意改訂
- 厚生労働省:高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。