波動と移動性濁音は腹水を示唆する|第120回医師国家試験B47

第120回医師国家試験 B47(2026年)

正答:b

問題

64 歳の男性。腹部膨満を主訴に来院した。

現病歴 : 1 か月前から腹部膨満が出現した。 2 週間前からズボンのベルトがきつくなるのを自覚し、症状が徐々に増悪するため受診した。排便回数は 1 回/日、普通便で、特に変化を認めない。

既往歴 : 40 歳時から高血圧症のため内服治療中。食物や薬物のアレルギー歴はない。

生活歴 : 食品会社の事務職。喫煙は 10 本/日を 10 年間。飲酒は日本酒 1 合/日を30 年間。妻と 2 人暮らし。 3 か月前から猫を飼っている。 6 か月前に東南アジアに出張した。

家族歴 : 父が 70 歳時に大腸癌のため手術。

現症 : 意識は清明。身長 164 cm、体重 64 kg。体温 36.8 °C。脈拍 72/分、整。血圧 136/78 mmHg。呼吸数 12/分。SpO2 97 % (room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認めない。甲状腺と頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は膨隆。腸雑音はやや亢進。血管雑音を聴取しない。圧痛はなく、筋性防御を認めない。明らかな腫瘤を認めない。波動を認める。Traube 三角の打診は鼓音である。体位変換により shifting dullness を認める。肋骨脊柱角の叩打痛を認めない。四肢に浮腫を認めない。

検査所見 : 尿所見:蛋白(−)、糖(−)、潜血(−)。血液所見:赤血球 436 万、Hb 13.7 g/dL、Ht 41 %、白血球 5,400、血小板 18 万、PT‐INR 1.0 (基準 0.9〜1.1)。血液生化学所見:総蛋白 7.6 g/dL、 アルブミン 3.8 g/dL、 総ビリルビン1.8 mg/dL、 直接ビリルビン 0.9 mg/dL、 AST 42 U/L、 ALT 46 U/L、 LD 256 U/L(基準 124〜222)、ALP 126 U/L (基準 38〜113)、γ‐GT 108 U/L (基準 13〜64)、アミラーゼ 94 U/L(基準 44〜132)、 尿素窒素 18 mg/dL、 クレアチニン 0.9 mg/dL、尿酸 6.9 mg/dL、血糖 102 mg/dL、HbA1c 6.0 % (基準 4.9〜6.0)、総コレステロール 180 mg/dL、トリグリセリド 108 mg/dL、Na 131 mEq/L、K 4.4 mEq/L、Cl 97 mEq/L。CRP 1.0 mg/dL。

身体診察から予想されるのはどれか。

a.脾腫

b.腹水

c.腹膜炎

d.イレウス

e.尿路結石

正答の理由

腹部膨隆に加え、波動と体位変換に伴う濁音界の移動(shifting dullness)があり、腹腔内の液体貯留、すなわちbの腹水が考えられます。液体が体位によって低い側へ移動するため、打診で濁音を認める範囲が変わります。これらは腹水の存在を疑う所見であり、原因疾患まで確定する所見ではありません。

各選択肢の検討

a.脾腫:Traube三角は鼓音で、脾腫を強く支持する所見ではありません。ただし打診だけで脾腫を完全に除外できるわけではありません。

b.腹水:波動と移動性濁音が支持する病態で、正答です。

c.腹膜炎:圧痛や筋性防御はなく、今回の診察所見だけで腹膜炎と診断しません。

d.イレウス:排便の変化がなく、主所見の波動と移動性濁音は腸管内ガスより腹水を示唆します。腸雑音の軽度亢進だけでは診断できません。

e.尿路結石:疝痛、血尿、肋骨脊柱角の叩打痛などの記載がなく、腹部の波動を説明しません。

覚えるポイント

腹水の有無と原因の診断は分けて考えます。肝疾患、悪性疾患、心疾患など原因は多様であり、飲酒歴や軽度の肝機能異常だけで肝硬変性腹水と断定しません。

出典・参考資料

問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。

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