第117回医師国家試験 C74(2023年)
正答:e
問題
85歳の男性。発熱と呼吸困難を主訴に家族とともに来院した。
現病歴:1年前から息切れのため自宅の階段を昇ることが困難となり、食事や飲水の際のむせが出現した。食事量も低下し、半年間で体重が5 kg減少した。1週間前から咳嗽と喀痰が多くなり、2日前から38 ℃の発熱と呼吸困難がみられるようになったため家族に伴われて受診し、入院した。
既往歴:15年前から高血圧症に対してアンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬を内服している。5年前から物忘れが目立つようになり、2年前にAlzheimer型認知症と診断された。
生活歴:65歳まで会社員。現在は娘の家族と同居。喫煙は65歳まで20本/日を45年間。飲酒歴はない。自宅で猫を飼育している。
家族歴:両親とも脳梗塞で死亡。
現症:意識は清明。身長160 cm、体重43 kg。体温38.0 ℃。脈拍120/分、整。血圧122/78 mmHg。呼吸数28/分。眼瞼結膜に異常を認めない。口腔内の衛生状態は不良である。心音に異常を認めない。呼吸音は両側でwheezesを、右背側でcoarse cracklesを聴取する。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。浮腫を認めない。
検査所見:血液所見:赤血球412万、Hb 13.1 g/dL、Ht 40%、白血球9,800(好中球82%、好酸球2%、好塩基球0%、単球7%、リンパ球9%)、血小板34万。血液生化学所見:総蛋白5.8 g/dL、アルブミン2.9 g/dL、総ビリルビン1.1 mg/dL、AST 14 U/L、ALT 10 U/L、LD 230 U/L(基準120〜245)、ALP 64 U/L(基準38〜113)、尿素窒素28 mg/dL、クレアチニン1.5 mg/dL、尿酸6.0 mg/dL、血糖135 mg/dL、Na 139 mEq/L、K 4.7 mEq/L、Cl 106 mEq/L。CRP 5.1 mg/dL。動脈血ガス分析(鼻カニューレ2 L/分酸素投与下):pH 7.33、PaCO2 58 Torr、PaO2 72 Torr、HCO3− 30 mEq/L。新型コロナウイルス〈SARS-CoV-2〉PCR検査は陰性であった。
入院3日目、患者の状態は改善傾向で酸素も不要となったが、急に呼吸心拍モニターを引きちぎり、「今日は仕事に行く」と言い病室から出ようとした。表情は乏しく、入院中であることを説明しても聞きいれず、複数名での制止を要する状態であった。
対応で誤っているのはどれか。
a.脱水を避ける。
b.早期離床を促す。
c.日中の覚醒を保つ。
d.呼吸心拍モニターを終了する。
e.夜間はベンゾジアゼピン系睡眠薬を用いる。


正答の理由
認知症を背景に、入院中に急に見当識や行動が変化しており、せん妄を考えます。原因の評価と環境調整を行い、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の安易な使用は避けます。せん妄の増悪、転倒、呼吸抑制を招くおそれがあります。
画像の見方
胸部写真では右中肺野を中心に斑状の浸潤影があります。CTでは背景肺に気腫性の低吸収域があり、右背側には気管支透亮像を伴う浸潤影がみられます。長い喫煙歴・喘鳴と合わせ、肺炎を契機とするCOPDの急性増悪を考え、嚥下機能低下による誤嚥の関与も疑います。
各選択肢の検討
a.脱水を避ける。:脱水は誘因となるため、状態に応じて予防・補正します。
b.早期離床を促す。:安全を確保して早期離床・日中の活動を支援します。
c.日中の覚醒を保つ。:昼夜のリズムを整え、夜間の睡眠を妨げない環境を作ります。
d.呼吸心拍モニターを終了する。:呼吸・循環状態が安定し継続の医学的必要性がなくなれば、不必要な機器を外して刺激や拘束感を減らします。必要な監視まで一律に終了する意味ではありません。
e.夜間はベンゾジアゼピン系睡眠薬を用いる。:正答。通常のせん妄・不眠への第一選択とはしません。アルコールやベンゾジアゼピン離脱等の特別な適応は別です。
覚えるポイント
急な変化を認知症の進行だけとせず、低酸素・感染・脱水・薬剤・尿閉・便秘・疼痛等を再評価します。
出典・参考資料
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。