第110回医師国家試験 F30(2016年)
正答:e
問題
61歳の男性。腹部膨満感と意識障害とを主訴に家族に連れられて来院した。
現病歴:3か月前から全身倦怠感を自覚していた。1か月前から食欲低下と下腿の浮腫とがあり、2週間前から腹部膨満感とふらつきも出現して外出ができなくなった。本日朝から発熱を認め、傾眠状態となったため家族に連れられて受診した。
既往歴:47歳時に人間ドックで肝機能異常と耐糖能異常とを指摘されたが医療機関を受診していなかった。
生活歴:喫煙は20本/日を40年間。脚本家で、若い頃から飲酒をしながら深夜まで仕事をするのが習慣化している。
家族歴:母親が脳出血で死亡。
現症:意識レベルはJCS I-2。身長169 cm、体重79 kg。体温37.9 ℃。脈拍84/分、整。血圧134/78 mmHg。呼吸数16/分。SpO₂ 98%(room air)。眼瞼結膜は貧血様である。眼球結膜に黄染を認める。呼気にアンモニア臭を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は膨隆しているが軟で、波動を認める。圧痛と筋性防御とを認めない。直腸指診で黒色便の付着を認める。四肢に運動麻痺はなく、下腿に浮腫を認める。
検査所見:血液所見:赤血球328万、Hb 8.8 g/dL、Ht 27%、白血球9,500(桿状核好中球31%、分葉核好中球44%、好酸球1%、好塩基球1%、単球6%、リンパ球17%)、血小板9万、PT 48%(基準80〜120)。血液生化学所見:総蛋白6.4 g/dL、アルブミン2.5 g/dL、総ビリルビン6.9 mg/dL、直接ビリルビン4.7 mg/dL、AST 118 IU/L、ALT 96 IU/L、LD 377 IU/L(基準176〜353)、ALP 683 IU/L(基準115〜359)、γ-GTP 332 IU/L(基準8〜50)、アミラーゼ50 IU/L(基準37〜160)、尿素窒素52 mg/dL、クレアチニン1.1 mg/dL、尿酸6.9 mg/dL、血糖100 mg/dL、HbA1c 7.3%(基準4.6〜6.2)、総コレステロール156 mg/dL、トリグリセリド90 mg/dL、Na 131 mEq/L、K 4.5 mEq/L、Cl 96 mEq/L。CRP 2.4 mg/dL。頭部CTで異常を認めない。腹部造影CT(別冊No. 6)を別に示す。
a.眼振
b.起座呼吸
c.項部硬直
d.Babinski徴候
e.アステリキシス(羽ばたき振戦)

正答の理由
黄疸、腹水、低アルブミン血症、血小板減少、凝固能低下から非代償性肝硬変が疑われる。意識変容は肝性脳症を示唆し、黒色便による消化管出血や発熱の原因となる感染症が誘因になり得る。肝性脳症ではアステリキシスが認められる可能性が高い。
画像の見方
腹水があり、肝表面は不整で肝硬変を示唆する。
各選択肢の検討
a.誤り。眼振は薬物中毒や小脳・前庭疾患などでみられるが、本例では肝性脳症が意識変容の中心病態である。
b.誤り。起座呼吸は左心不全等による肺うっ血を示唆するが、呼吸困難や心肺所見はない。
c.誤り。項部硬直は髄膜刺激徴候だが、本例の黄疸、腹水、肝合成能低下と意識変容からは肝性脳症をまず考える。発熱の原因は別途評価する。
d.誤り。Babinski徴候は錐体路障害を示すが、運動麻痺はなく、びまん性の肝性脳症が示唆される。
e.正しい。肝不全に伴う意識障害では手を伸ばした際に姿勢を保持できないアステリキシス(羽ばたき振戦)がみられる。
覚えるポイント
肝硬変患者の意識変容では消化管出血・感染などの誘因を探し、羽ばたき振戦を確認する。
出典・参考資料
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。