第107回医師国家試験 G51(2013年)
正答:b
問題
81歳の女性。75歳ころから記銘力の低下がみられるようになり、物忘れ外来でAlzheimer型認知症と診断された。薬物療法や記憶回復訓練を受けたものの認知機能低下は進行し、2年前から介護保険施設に入所している。約1か月前から鏡に映った自分に挨拶し困惑した表情を浮かべていることに施設の職員が気付き、定期受診の際に主治医に相談した。
この患者に1か月前からみられる症状はどれか。
a.失行
b.失認
c.意識障害
d.注意障害
e.遂行機能障害
正答の理由
鏡に映った自分を自分と認識できず、他人として挨拶しているのは「鏡現象(鏡徴候)」と呼ばれ、中等度〜高度に進行したAlzheimer型認知症でみられ、全般的な認知機能低下と関連します。視力や意識は保たれているのに、見ている対象(鏡像の自分)を正しく認識できない状態であり、選択肢の中では失認にあたります(公式正答)。ただし鏡現象を妄想性誤認症候群の一つとする見方もあり、分類には議論があります。
各選択肢の検討
a.誤り。失行は運動機能が保たれているのに、以前は行えた目的のある動作(道具の使用、着衣など)ができなくなる状態です。鏡像を他人と思う症状は動作の障害ではありません。
b.正しい。感覚器に異常がないのに対象を認識できない状態が失認です。鏡の中の自分を自分と認識できない鏡現象は、選択肢の中では失認(相貌など視覚対象の認知障害)にあたります。
c.誤り。意識障害は覚醒度の低下や意識の変容で、せん妄のように急性に変動します。本例は施設で普段どおり生活しながら、特定の認識の障害が持続しています。
d.誤り。注意障害は注意の集中・維持・転換が困難な状態で、せん妄の中心症状です。鏡像を他人と取り違える症状の説明にはなりません。
e.誤り。遂行機能障害は計画を立て段取りよく物事を実行することの障害です。鏡像の自己を認識できないこととは別の症状です。
覚えるポイント
鏡に映った自分を他人と思う(鏡現象)は進行したAlzheimer型認知症の失認症状。
出典・参考資料
- 厚生労働省:第107回医師国家試験問題および正答
- MSD Manual Professional Edition: Agnosia
- MSD Manual Professional Edition: Apraxia
- MSD Manual Professional Edition: Alzheimer Disease
- MSD Manual Professional Edition: Delirium
- Prevalence and Clinical Implications of the Mirror and TV Signs in Advanced Alzheimer's Disease and Dementia with Lewy Bodies (Nagahama Y, et al. Dement Geriatr Cogn Dis Extra 2020)
- Analysis of clinical characteristics of mirror and TV signs in Alzheimer's disease and dementia with Lewy bodies (Chen G, et al. J Int Med Res 2023)
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。