第102回医師国家試験 I48(2008年)
正答:c
問題
26歳の男性。四肢の運動障害を主訴に来院した。頭部単純MRIのT2強調水平断像(別冊No. 6A)、頭部造影MRIのT1強調水平断像(別冊No. 6B)、頭部単純MRIのT2強調水平断像(別冊No. 6C)及び頸部単純MRIのT2強調矢状断像(別冊No. 6D)を別に示す。
最も考えられる疾患はどれか。
a.神経膠腫
b.転移性腫瘍
c.多発性硬化症
d.進行性多巣性白質脳症
e.副腎白質ジストロフィー




正答の理由
26歳という好発年齢の男性で、T2強調像では両側の側脳室体部の外側の白質に円形の高信号病巣が複数あり、そのうち患者右側の最も大きな病巣は造影T1強調像で結節状に濃く増強されています。さらに橋のレベルと頸髄の画像が提示されており、空間的に離れた複数の中枢神経病巣を評価する構成になっています。確認した資料では、多発性硬化症は脳と脊髄に散在する脱髄巣を特徴とし、発症年齢は15〜60歳(多くは20〜40歳)で、空間的多発は脳室周囲・皮質近傍・テント下・脊髄・視神経の5領域のうち2領域以上の病巣で示され、ガドリニウム造影は活動性の病巣と陳旧性の病巣を区別できると記載されています。以上から多発性硬化症が最も考えられ、公式正答はcです。
画像の見方
写真A(T2強調水平断像)では、画像左側すなわち患者の右側で、側脳室体部の外側にあたる白質に境界比較的明瞭な円形の高信号病巣があり、そのすぐ後下方の脳室縁にもう1個小さな類円形の高信号域がある。画像右側(患者の左側)でも側脳室体部の外側縁から外へ張り出す卵円形の高信号が2か所指摘でき、病巣は脳室周囲に両側性・多発性である。写真B(造影T1強調水平断像)では、写真Aの大きな病巣と同じ位置が濃く増強される。増強部の画素値を中心からの距離別に平均すると、中心部223・中間部210〜220に対し辺縁は150前後、周囲の白質は135前後で、中心がもっとも高い。すなわち辺縁だけが濃いリング状増強ではなく、結節状(充実性)の増強である。病巣の最大径は約40pxで、同じ断面の頭蓋内腔の左右径(約440px)の約9%にあたる。他にはっきりした増強病巣は指摘できない。写真C(橋・両眼窩のレベルのT2強調水平断像)では、橋腹側に周囲とわずかに濃度の異なる円形域が左右1対みられるが、正中で折り返して画素値を比べると左側平均147.6・右側平均156.9で印刷のむらの範囲にとどまり、左右非対称な限局性病巣は本写真では同定できない。写真D(頸椎T2強調矢状断像)では、前方に椎体、中央に脊髄、背側に後方要素が並ぶ。コントラストを強調して脊髄を追っても、髄内に限局した高信号域は本写真の解像度では同定できない。椎間板の大きな突出や脊柱管の著明な狭窄は目立たない。
各選択肢の検討
a.神経膠腫。誤り。神経膠腫は通常ひとつの脳実質内腫瘤として浸潤性に発育します。本例のように脳室周囲に小病巣が両側性に多発する分布は、ひとつの膠腫では説明しにくいです。
b.転移性腫瘍。誤り。26歳で原発巣を示す病歴がなく、転移を疑わせる全身所見の記載もありません。
c.多発性硬化症。正しい。好発年齢に一致し、脳室周囲に多発する病巣のひとつがガドリニウムで濃く増強される活動性病巣として描出され、脳幹・脊髄を含めた空間的多発を示す画像構成に合致します。
d.進行性多巣性白質脳症。誤り。確認した資料では、進行性多巣性白質脳症はHIV感染や免疫抑制薬の使用など免疫が低下した人に起こるまれな脱髄疾患とされています。本例に免疫不全を示す記載はありません。
e.副腎白質ジストロフィー。誤り。確認した資料では、X連鎖性副腎白質ジストロフィーの小児大脳型は通常4〜10歳に学習・行動の問題で発症し、成人期から中年に現れる副腎脊髄ニューロパチー型は下肢の進行性の硬さと筋力低下(対麻痺)に副腎皮質機能低下を伴うとされています。本例は26歳で、造影で増強される脳室周囲の多発性病巣という所見とは合いません。
覚えるポイント
若年者で空間的に多発する中枢神経病巣があり、ガドリニウムで増強される活動性病巣が混じっていれば多発性硬化症を考える。
出典・参考資料
- 厚生労働省:第102回医師国家試験問題および正答
- Multiple Sclerosis (MS) – Neurology – MSD Manual Professional Edition
- Progressive multifocal leukoencephalopathy: MedlinePlus Medical Encyclopedia
- X-linked adrenoleukodystrophy: MedlinePlus Genetics
問題と正答の出典は厚生労働省です。解説は本サイトが作成した学習用の解説で、厚生労働省の公式解説ではありません。出題時点の設問に沿って説明しています。